萩那久の日記なんですけど、本当に日記だけかよ。 サイトへ戻る

アキコ過去捏造①

※注意

最早二次創作じゃない原作から分離した萩那久の妄言。多分原作知らない人も読める。





香田の『吹部歴6年ファゴット歴5年』という設定で、「じゃあお前中1の時何やってたの?」とか思うんですけど、パーリーシャッフルで初めて(?)ドラムを叩いたにも関わらずパーカスの人に「上手い」と言わせる辺りから考えたら、中1の時はいろんなパートをフラフラと渡り歩いてたんじゃないかなーって。
そして個人的に、中高同じパートだったクセに初めて会話を交わしたのが香田高2千丸高1ってのが結構ズッシリきてるんですよ。そんで「こいつら中等部時代何してたの?」と妄想始めたら止まらなくなっちゃって……。それを垂れ流しますね。推敲もしてないし、思いついたまま書いてるので、メモ程度ですがw

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   中学受験から解放されたオレがハマってしまったものはアニメで、入学式までにはすっかりヲタの部類に入ってしまうくらいには深入りしてしまった。多感な時期だし、たまたま好きだったアニメの影響で「孤高のオレかっけー。独りで誰とも喋らないのに自分をしっかり持つオレかっけー」みたいになってたオレは、『誰かと喋った死ぬ』という厨二の入った遊びを始めていた。
   当然、部活なんて人の繋がりの強い団体に所属するつもりなんてなかった。小学校時代の絵の実力から勧誘されていた美術部への入部を蹴って帰ろうとして、何と無く目をやった先にあった吹奏楽部の入部案内。それが脳に焼き付いて、気がついたらそこに入部していたのだが、早々に後悔していたのはオーボエのせい。
   吹奏楽といってもいろんな楽器があるし、楽器ごとに集まってパートを作っているのは知っていた。オレは、いかに人数の少ないパートに入るかを考えた末に、たった一人の先輩しかいないオーボエを選んだ。それが当時は外れだと信じていたのだけれど。
   唯一の先輩は、部活に来ない人だった。入部した日、オレに楽器を渡したかと思うとさっさと帰ってしまい、それから一週間現れなかった。簡単に言えば無責任。オレは楽器を吹くこともできず、ただ毎日誰もいない教室でマンガ本を読む日が続いた。
   次に部活に現れた先輩は、「そういや、お前名前なんて言うの?」と尋ねてきた。お互い自己紹介もしていないのに、それを一週間放置するのもどうかと思うし、オレに楽器を吹かせる気がないんじゃないかと疑い始めていたもんだから、オレは無言で通していた。そのまま沈黙が降り、先輩は呆れたように口を開け、「まあいいよ。お前がその気ならオレもお前と関わらない」と訳のわからない言葉をこぼし、またいなくなってしまった。
   更に一週間後、先輩は別の人を連れてきた。
「今日からこいつに教えてもらえ」
   先輩が、その人の背をポンと叩き「宜しく」とだけ言って去って行ってしまい、残されたオレとその人と、二人で唖然としていた。


「うそ、あの先輩マジかよ。オレさ、オーボエなんかわかんねえんだけど」
   その人が、頭を抱える。この人誰だろう、と内心思ったが、喋らないと自分で決めた以上口には出さない。オーボエなんていつぶりだよ、なんて独りブツブツ呟くこの人は、昨日までサックス吹いてた気もするし、クラやバスクラを吹いてた気もする。フルートパートに交じっていた記憶もあるし、独りでコントラバスを弾いていた印象もある。訳がわからない。
「あー、確かお前、千丸ってんだろ。一年の顔と名前一応全員チェックしたんだけど、お前だけ顔合わせてなかったし」
   困った顔のまま、オレのそばまで歩いてきたその人の背は、オレより頭ひとつ分高かった。
「オレは香田ってんだけど。一応二年ね。呼び方は……なんでもいいや。とりあえず、今日から宜しくな」
   少し微笑み、こちらを見下ろす香田とかいう先輩。誰とも喋っちゃいけないオレは当然無言。ああ、これでまたこの人にも嫌われるんだろうな、そう思っていたのに、彼はオレのその予想の一切をスルーした。
「とりあえず楽器の組み立て方からか。どうせあの先輩、なんにも教えてくれなかったんだろ?」
   香田という先輩は、一番手近にあった椅子を引っ張り出し、オレに座らせる。
「楽器ケース開けてみろ」
   彼に従い、開けづらい楽器ケースをなんとか開ける。中の楽器を、オレは初めて見た。
「楽器は大事に扱うこと。特にオーボエは細かいキーが多い楽器だし、曲がったりしたら面倒くせーから、気いつけろよ。あとは、こうやって持って、このパーツを差し込んでいけば楽器になるから」
   香田さんの言う通りに、楽器のパーツだろうモノを手に取り、組み立てていく。
「そう、そんな感じ」
   無事に楽器を完成させたオレに満足したらしい顔の香田さんは、オレの猫毛な頭をわしゃわしゃと掻き回した。人との間に壁をつくりたがるオレにとっては、その壁をつくる間も無いくらい突然で、驚いてしまう。怖い、と少し感じたが、予想以上に心地良かった。
オーボエって、リードがいるんだよな。あの先輩、そんなのひとつも用意してねえんだろうけど。ちょっと待ってろ。探してくるわ」
   香田さんは、そのまま慌ただしく教室を出ていき、30秒も経たずに嬉しそうな顔で帰ってきた。
「リード、あった!」
   そんなの報告しなくても、顔見りゃわかりますから。オレは表情筋を全く動かさずに、香田さんのすることを眺めていた。
「これな、リード。オーボエってダブルリードっつって、なかなか複雑なんだけど、こーやってフィルムケースかなんかに入れた水に浸して、それから吹く。どのくらいの時間浸すかってのは、自分で研究しろよ」
   オレの反応なんて関係なしに話を進めていく香田さん。いちいち構ってくるより、かなり印象はいい。あのオーボエの先輩に比べて、この香田さんには随分と好意的な感情を持つ自分が意外だった。
「じゃ、楽器吹いてみろ」
   ほい、とリードを差し出され、オレはそれを受け取る。楽器に取り付けて、その先端を咥え息を入れようとして、入らなかった。あれ。
「あー、リード噛んでるかな?唇ではむってしてみろ。はむって」
   椅子に座るオレの顔を覗き込むようにしゃがみ込み、はむ、と繰り返し呟く香田さん。この人、面白いかもな、なんて。再び楽器に息を吹き込むと、その息が振動、音と変わった感覚がした。
「うわ、お前めちゃくちゃいい音出すじゃん。すげーな」
   驚きと尊敬を余すことなく表情に出す香田さん。この人を見て、オレは、何も語らず人に理解されない、されようともしないオレ自身と、何も語らずとも人に思っている事を表情で伝える香田さんの、正反対な性格に気づいた。

   次の日も、その次の日も、オレは香田さんにオーボエの指導を受けた。彼の指示は的確で、確かに上達してるのが自分で実感できた。
「これ、プロの演奏。オーボエって難しいし、音をイメージする上で大切かなって」
   そうやってCDを貸してくれた事もある。やはりオレは喋ることができないから、チョコンと頭を下げたら、そのまま髪の毛を掻き回された。
「お前、最近楽しいだろ」
   顔をあげると、眩しいほどの笑顔を見せる香田さん。ドキリとした。楽しい、のかもしれない。音楽を、この人との時間を、楽しんでるのかもしれない。
   そう考えると、オレの中にふわふわした不思議な感じが生まれ、少しオレの人生を前向きにさせた。もうオーボエは嫌いではなくなっていた。


「そういや、さ。千丸、新しい楽譜配られてっけど、貰った?」
   七月、ふらりといつもの様にオレのいる教室に現れた香田さんが、指導中にふと尋ねてきた。オレは首を横に振る。
オーボエって、一応フルートと同じとこに部類すんだけど、フルートの先輩に訊いてみ?」
   首をちょっと傾げ、オレとかっちり視線を合わせる香田さん。なんとなく落ち着かなくなり、その視線から逃れ下を向く。指先を少し動かし、キーをカチャカチャと鳴らした。
「あ、でもお前喋んないヤツだったな。オレがとってくる!」
   突然立ち上がり、そのまま風のようにいなくなってしまった。
   喋んないヤツ。香田さんの放ったその短い言葉が耳に残る。オレは、この響野に入学してから声を発していない。この厨二ルールがここまで続くとは思わなかったのだが、香田さんはオレのことを不気味だとか面倒くさいとか思わないのだろうか。むしろ、オレたちはどうして意思疎通ができているのだろうか。
   タタタと軽い足音がかけてきて、勢いよく教室のドアが開く。
「とってきた!これ、オーボエ。多分、こ、今回も先輩、吹かないから。だから、これお前の分だけな」
   息を切らしながらも笑顔の香田さん。差し出された譜面を無言で受け取る。
「千丸、楽譜読める?」
   こくりと頷く。ならよかった、とまた笑顔になる香田さん。その顔をみて、この人の考えてることって、わかりやすいなあ、と思った。
「楽譜読めるんなら、譜読みしてて。オレ今からコンクールの合奏行ってくっから」
   香田さんはオレの頭をまた掻き回し、じゃ、と去っていった。コンクール、初心者の一年生は殆どが出られないが、二年生の香田さんは出るようだ。しかし、オレはあの先輩が何の楽器を担当しているのか、いまだに知らなかった。

【続く】